cametekの日記

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「heart of android」に曲コメントを書きました(ネタバレ?注意)

この記事はどんな記事ですか

昨年、2018/12/30にコミックマーケット95にてリリースされた拙作「heart of android」について、製作中どんな事を考えながら作っていたか?どの曲にどんなイメージやコンセプト、アイデアが詰まっていたか?と言ったことをコメントしていく記事です。

ちなみにこのアルバムは今日、2019/01/31より各種デジタル配信サイトで配信を開始しており、こちらの記念も兼ねています!イェーイ

デジタル配信ストア各種

…とは言いつつも、このCD全体のイラストワーク、デザインワークは本当に素晴らしく、色々なデモやラフが届くたびに果てしないプレッシャーを感じて体調がどんどん悪くなる、心がミシミシ言う、というほどでした。そんな電鬼さん、TOHRU MiTSUHASHiさんによるイラストワーク・デザインワークがフルで楽しめるのはCDの特権ですので、CDというフォーマットでも、引き続き並んで強くおすすめします。

委託ショップ(CD)

注意

製作者のコメントと言うと、これが正解!というような意義で伝わってしまいそうですが、基本的には細かいところを含めて皆さんの想像におまかせしたいと思っていますので、そこんところはゆる~くお願いできるとマジでありがたいです。かめりあお前が間違ってるんだ!のスタンスで行きましょう!(何(マテ

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heart of androidのジャケット(イラスト:電鬼 デザイン:TOHRU MiTSUHASHi)、本当に綺麗で、プレッシャーがありました

本文

アルバム全体のイメージとコンセプト

「heart of android」はその名の通り"アンドロイドの心"、心のあるアンドロイドをテーマにした、メコンセプトとしてこれまでに冠したことのない「エモい」アルバムを目指して作りました。

ところでまず、この「エモい」という単語についてですが、実はこの単語の意味というのが、今まさに移り変わりつつあるのを認識していました。比較的年上の方(あるいは、自分の世代)では、「エモい」は「感傷的」「叙情(抒情)的」「泣ける」「切ない」といったニュアンスで使う方が多いように思っています。しかしながら、比較的年下の方では、「エモい」が「高揚(昂揚)する」「アガる」「盛り上がる」といったニュアンスでよく使われているようです(自分の個人的な認識です)(合ってますよね?)。

そこでその現状を逆手に取って、「エモい」「エモーショナル」に複数の意味を持たせ、"抒情&昂揚"の二つの側面を持ったアルバムにしたいな、というイメージで作り出したのがこのアルバムです。聴いて頂く方々がそれぞれの「エモさ」を感じてくれればいいのですが!

それから、サブテーマとして「有機と無機」、「懐かしい近未来」と言ったものもあります。前者は、以前より自分のサウンドになりつつあった組み合わせではありますが、シンセサイザーなどの無機質なサウンドと、ピアノやストリングス、あるいはボーカルなどの有機的なサウンドの融合。後者は、ややサイバーでクールなサウンドに、あえてピアニカや、オルゴール、それから8bit的な音色を組み合わせたりなど、と言った形で表現しています。

 

それぞれの曲について

01. Alone intelligence

Twitterに軽い気持ちでプレビューを投稿したらガッツリ伸びてしまい、かなり緊張した一曲でした(メタ)。

「独りぼっちの知性」。自分の好きな物語のパターンに、"主を失ったロボット"というものがあるのですが(まぁ、具体例を挙げなくても色んな所で散見されますよね)、そのイメージを重ねて作っています。廃墟や高層建築の街に降る雨の中で、自分のすべき事は一体何なのかを探すアンドロイド、という描写を考えながら作っていました。マジか、そうだったのか…。知らなかった、そんなの…

後の何曲かでも聴ける通り、この曲のフレーズがアルバム全体のモチーフになっています。例えばTr.03 "[ns]", Tr.13 "Heart of Android : Even If It's Only By Mechanism", Tr.14 "Embracing intelligences", 面白いところではTr.07 "S.A.T.E.L.L.I.T.E.", Tr.11 "Tojita Sekai"のボーカルラインに現れていたりもします。

02. Arcology On Permafrost

全部の曲に物語性があるわけではないんですが(爆)

曲名は「永久凍土の完全環境都市」という意味になっています。永久凍土が残っている程度には寒い地域に都市を構えるなんて、さぞ凍えるだろう、と思いつつ、そんな中でも都市がある程度には技術が発展した未来なんだ、という深読みタイトルの意味も込められていますね。

昔から「冬っぽい場所(のBGM)」「氷っぽいステージ(のBGM)」、あるいはとかとかが大好きなんですが、皆さんとも共有できているんでしょうか。単に自分が北海道生まれで東京に越してきたから、とかそういう話ではないといいんですが。

この曲では顕著ですが、アルバム全体を通じて、1曲のうち2回し目をほぼ必ず違う形の展開にする事を心がけています(勿論このアルバムに限らずですが)。特にこの曲では、後半でテッキーなドラム隊が入ってきて、ピアノのリフに移り変わる、という面白い展開を組むことができ、曲の冷たい雰囲気と合わせてコッソリお気に入りです。

03. [ns]

曲名の意味は"nanosecond"です*1

ナノ秒」というほんの短い時間に、莫大な量の計算を走らせることができるようになった高度な計算技術をイメージし、相当に細かいエディットを施したブレイクビーツを曲全体にガツガツ配置しました。更に4つ打ちの展開も入ってきてしまったりするBreakcoreです。…とはいえ、どう頑張ってもせいぜいミリ秒単位のエディットですが!

ブレイクス(ドラム)以外のほとんどの音が消えたりするトリッキーな曲ですが、BreakCoreはドラムが気持ちよければ成立する、というジャンルなので面白いですね。

04. Σtealth-Δash

もちろん、"Stealth-Dash"の意味ですね。

このアルバムを作るにあたって、どんなものが『近未来』めいているだろうか?と考えていました。純粋な近未来ではなく、確かに想像の中には存在するけども、どこかチープで懐かしい近未来…と考えた時に、自分の記憶からは「爆ボンバーマン(の謎にカクカクした街(マップ?))」や「アーマードコア」、「ラチェットアンドクランク」、「FF8エスタ」が思いつきます。そして、後にTojita Sekaiで再び触れることになるのですが、「カスタムロボ(特にBattle Revolution)」の世界観と言ったものがストライクヒットしました。

で、カスタムロボにはストライクバニッシャー型というロボの種類があり、そのロボは空中のダッシュ時に"ステルス"という相手のガンを無効化することのできる能力を持っています。これが全てです。マジか。

05. FM Synthesis Experiment

この曲はかなり遊んでしまいました。

まず、曲全体のピッチが半端なくズレており*2絶対音感を持っている一部の人は相当気持ち悪く思うはずです。稀に「録音ミスでは?」という声もありましたが、私がいちいち全てのシンセにお前チューニングを下げろ(上げろ)とセッティングした結果です。

それから曲名にもある通り、FMシンセサイザーを至るところで多用し、分かりやすいところではドロップの多種なサウンド、後半のメロディシンセの音、あるいはパッドやSEなどなど、相当に実験的な楽曲になりました。

上に挙げたような前世代のゲーム内での「近未来的」なマップや、「謎のラボの実験室」的な場所の曲といえば、やはりチープ(今となってはですよ)なFMサウンド、そしてコードの平行移動。そういった、我々の中に宿った"エセ"近未来、というものを表現しつつ作られた曲です。

06. Together forever, my lovely lovely video game cartridges

普段から自分のツイッターを監視してくださっている方々にとっては、自分が改めて言うことではないのかもしれませんが…。昔からポケモンというゲームが好きで(ご存知ですか?)、ずっと昔に自分が持っていたはずのポケモンのカートリッジと、捕まえていたはずのポケモン達のことを思いながら書いた曲です。

サウンド的にはややFuture House的になりつつも、ここまで音数が多いともはや普通のHouseですよね。とはいえテーマがテーマだけに8bit系の音色が多く、意外とまとまった曲になったような気もしています。

07. S.A.T.E.L.L.I.T.E.

衛星。そもそも「人工衛星」という存在そのものが地球から遠く離れて一人信号を送り続けるマシーンとして、完璧にこのアルバムのコンセプトなのですが、その上彼らは空に輝くのがマジで卑怯なんですよね(知るか)。

遥か未来、おとぎ話か歴史資料の中にしか「きらめく星」という存在は残っていなく、厚い雲に覆われた大地にとって、もはや観測する手段も無いような存在だった。人類はかつて、慣習としてそんな星に対して何かを願ったようだが、もはや誰も、この夜空に何も見つける事はできない。アンドロイドたちは、そんな幻のような存在の代わりに、絶えず『信号』を瞬き続ける人工衛星にそれぞれの願いを心の中で祈っている。

というような内容を歌っています。

08. This Future (we didn't expect)

歌詞の中でほぼほぼ全て歌ってしまっているので、改めて書くことがありません。…で終わらせるのもしょうがないので音楽面の話をしたいです。

常套句と言われてもしょうがない気もする「"今"があの時思い描いてた未来なんだよ」という話。曲中では、その未来の表現のため色々なローファイな音源を使用しまくってます。例えばピアノに始まり、ストリングス、ベル、そしてボーカルに至るまで、いたるところで劣化した、チープな音を使いまくっているわけですね。でもそういう音こそがあの頃の一番カッコよかった音だったりして…

Future Bass+曲後半でのHardcoreへの展開、という組み合わせは以前にも「プレゼント」という楽曲でななひらさん、そしてギター、ベースを弾いてくれている「つこ」とトライしています。こちらの曲では"ロックカルチャー方面由来の"「エモ」というジャンル、という意味で共通している所も多く、良ければこちらの曲もどうでしょうか(?)。

09. Upload Your Mind :: Download My Soul

PsystyleとRawstyleを絶えず行ったり来たり、相当足回り(ドラムとベース)を作るのは大変でした。必ずしも未来が全て明るいとは限らない、電脳世界の暗部、といった雰囲気の楽曲です。そうだったのか…

楽曲中ではタイトル通り「お前の心をアップロードして、(代わりに)俺の魂をダウンロードしろ」と言い続けています。想像し得る通り、何か巨大で、統一された人類(あるいは、それらがロボットやアンドロイドだったとしても構わないのですが)を望む存在を背景にイメージしていました。ただ、この曲はその『私の思惑に従う同一の存在になれ』という強い圧力に対して、抵抗し続けるか弱い存在をイメージした曲です。

メインのテーマをピアニカとアコギでいきなり演奏し始める辺りは、そんなか弱い存在がどうしても消されたくない、小さな思い出をイメージしながら作りました。え、そうだったのか…

10. New Era

「新時代」というタイトルでありながら、楽曲はエレクトロ、ビッグルーム、という何ら新しさのないジャンルなのがお気に入りです。とはいえ、既存のジャンルではあまり扱われていない音使いやカットアップなどをスパスパ差し込むことができ、新時代っぽい(そうなのか?)曲になったのでほどほどに安心していました。

この曲には明確なストーリーがあるわけではありませんが、「目覚め」という朧気なテーマを拵えながら作っていたような気がします。長い長いコールドスリープから目覚め、その名の通り"新しい時代"に目覚めた時の不安、そして希望…。実際、最近一番分かりやすいのは「ゼルダの伝説 Breath of the Wild」のOPシーンだと思いますし、確かにサウンド的にも近いものがあるな…と書きながら再認識しています。

11. Tojita Sekai

この曲はマジで頑張りました。

さて、「Σtealth-Δash」の項でも触れた通り、この曲は「カスタムロボ」の世界観に強く影響を受けています。10年以上前のゲームに対してそれを言うのも些か過敏な気はしますが、詳しくはネタバレになってしまうので、Wikipediaの記述を読むなり(「用語」のあたりに詳しく書いてあります)各自でお願いできればと…。

あえて言う必要のあることではない(歌詞の中でほぼほぼ説明していますしね)のですが、説明するとすれば「トゥルーマン・ショー」のように周りを作り物の空、作り物の壁、そして奈落の囲む世界から抜け出そうとする二人の物語の曲です。

イントロでも何度か鳴り、そして歌詞の中でも触れることのできた退廃感のある鐘の音がお気に入りです。その他にも、勿論こういった複雑な展開や、中間部ではQuarter Stepと呼ばれていた、Dubstep黎明期に生まれたハーフビートの更に半分の速度のビートを採用したりなどなど…。自作の中では比較的壮大な7分に及ぶ楽曲にもかかわらず、コツコツ頑張った末仕上げられたのですこぶる気に入っています。

12. Beyond the Geostationary Orbit Level

静止衛星軌道を超えて」。もちろん、"Exit This Earth's Atomosphere"から連想を受けています。「Upload Your Mind :: Download My Soul」しかり、純粋に「叙情的」というテーマをこのアルバムに冠していたとしたら、こういった激しいタイプの楽曲をどうやって落とし込んでいただろうか、と「エモい」の多義性やテーマの複雑さに感謝した楽曲でした。

この地球の大気圏を脱出し、静止衛星軌道を超え、どこにそれが向かい続けるのか…。一体なぜそれは進み続けるのか…。それの行き先は、まだ誰も知らない。まるで音楽を書き続ける自分のような話ですね。そうだったのか…

13. Heart of Android : Even If It's Only By Mechanism

ジャケットのイラストを頂き、さてこれは大変なことになってきたぞ…と思いながら作った曲です。全体的にはFuture Glitch的な雰囲気ですが、ストリングスがいればギターもいるし、ほとんどポップソングですね。

「heart of android」という表題を冠しているにもかかわらず、そんなのは計算の結果に過ぎない、真似をしているだけだという歌詞になっています。言わずもがな、イラストの情景をイメージしていますし、楽曲の全体を通じてボコーダーによるロボットボイスっぽい加工を施しました。

こういった、楽曲の内容に合わせて色々な加工やFXを足していくことが好きなんですが、明らかに「ゲームのBGM」や「効果音」というところから着想を得ている気がして、いくらゲームが下手になっても根っこはゲーマーなんだなぁ、と感じます。

実際右側の娘は人間なんでしょうか?自分も知りません!それでも、たとえそれがプログラムや機構やシステムの結果であったとしても、そこに心があると信じることができるということを、あえて逆のことを言い続けることで表現したんですが、皆さんには伝わったんでしょうか。自分も知りません!伝わっているといいなぁ、と思います(そして、そのためにセコセコブログを書いています)。

14. Embracing intelligences

イントロであるAlone Intelligencesが皆さんの好きなタイプのEDM/(Melodic)Dubstep/HDMだったということもあり、アウトロはどんな曲にするか悩みましたが、ハッピーエンド的な楽曲にしてみることにしました。Tropical Houseと呼ばれるジャンルです。

面白い所で、申し上げた通り、今回のアルバムでは2回し目で同じ展開をしない、ということを心がけて作ってきました。実質的なアウトロ(Tr.15はQuaoarですしね)で、音は増えているものの同じ形のドロップを2回し目でもう一度繰り返す、そしてよく聴くと2回し目のドロップは転調している、という形式にしてみました。イェーイめっちゃアウフヘーベンです。CMaj→FMaj、下属調と呼ばれる調への転調で、自然に聴こえる転調の一つの上、そもそもクラブミュージックは転調しない曲のほうが圧倒的に多く、注意深く聴かないと気づかない人の方が多そうだ~と思いましたのであえて書いてみました。そのためにセコセコブログを書いています。そうだったのか…

15. Quaoar (For "Thanks Follower 50k")

もともとTwitterフォロワー5万人を記念してフリー公開した楽曲ですが、非常に楽曲のイメージがアルバムのコンセプトに近いということもあって、せっかくなので収録しました*3

最終的に「抱擁しあう知性たち」でハッピーエンドにしておきつつ、「Quaoar*4」という夜空のイメージで終わっているアルバム、意外といいアフターストーリーが用意でき、アルバムそのもののストーリーが良く組み上がって安心した曲でした。きっと人工衛星から送られてくる信号だけが届く、世界の果ても空に広がる天球も作り物の閉じた世界から抜け出して、ついに夜空を見られたんでしょうね(適当)。めでたしめでたし。

最後に 

直接の関係がある話ではないのですが、このアルバムを作っている最中に某コンテストが突如開催されたり、制作はこれまでにないほど非常に非常にギリギリのものでした。実際15曲というのは、以前からリリースしている自分のアルバムに比べると比較的多いけども最大ではない、というレベルですが、今作はすべての曲で繰り返しの展開を避けていたので、概ね1.5~2倍くらいの手間暇がかかっています(体感)。一日中目眩が止まらなくなった時はマジもうおしまいやと思いました。めまいがとまらなくなったりもしたけれど、わたしはげんきです。多分ストレスです。

そんな中で応援して下さっている皆さんや、フォロワー諸兄(いつもありがとうございます)、あるいは家族・友人・先輩方に大変大変支えられまして、なんとかリリースすることができました。某コンテストの楽曲が無事に皆さんにお披露目できたのももちろんその1つですが、いつも皆さんの声やツイートや、イベントに足を運んでくださる皆さんが自分の創作を支えてくれています。本当にありがとうございます。

同人に限ると、フルオリジナルのソロアルバムは「INVAIDAS FROM DA JUNGLE」以来です(その間ソロアルバムは「GALAXY BURST」や、kradnessさんとのアルバム「Mira」をリリースしていますが)。INVAIDAS~は2017年の夏のリリースなので、実に1年半近くお待たせしてしまいました。これからも引き続き制作に誠心誠意取り組んでいきますが、まずはやっとこさリリースできたこのアルバムを楽しんでもらえると嬉しいです!

というわけで、9,000文字強に及ぶ稚拙な感想文をお読み頂きありがとうございました。かめりあでした。

*1:場合によりますが、学術単位は[ ]で囲むのが慣習の一つになっています

*2:半音の半音、±50Centズレています。押しなべて言えば、通常の調律の楽器をこの曲と一緒に弾こうとすると、全ての音が「半音の半音」ズレて聞こえます。これは結構なズレです。逆に言えば、通常の調律の楽器、あるいはシンセなど上では、1つもこの曲のチューニングに合う音が存在しません。これは結構なズレです。結構です。

*3:これ以上曲を書くかどうかと言われれば書かなかったでしょうし、その上これで収録時間限界ちょうどということもありましたので

*4:Twitterのフォロワー5万人にかけ、50,000番目の天体名を名付けています